ランダムに出された三つのお題を入れて話をつくる「三題噺」というお遊び。ときどきやりたくなります。10連休で時間が出来たのでちょっと書いてみました。
今回のお題は
— 松田 朱夏 (@shuka_matta) 2019年4月28日
1.突破
2.田舎
3.月です!
イマジネーションを爆発させよう!https://t.co/I8M8FPkdYE
簡単なようで難しいヤツでたな
突破/田舎/月です!
「難関突破おめでとう!」
「いやー、うちの高校から東京へ進学するやつが出るなんてなぁ」
まわりの大人たちは、主役のはずの俺をそっちのけにして、もう酔っ払って赤い顔をしている。
別に、高校の先生に何をしてもらったわけじゃない。親だってそうだ。あんたたちの手柄はなにもない。俺はひとりで勉強し、ひとりで東京に行く。もうこんな田舎はまっぴらなんだよ。
駅前の居酒屋は、呼んでもいないのにあとからあとから人が入ってきた。もう誰が誰だかわかりゃしない。そのうち、俺にも酒を勧めるやつが出始めたので、トイレに行くふりをして、さっさと店を出た。どうせあいつらは、ただ宴会したいだけで、俺のことなんか本当はどうだっていいのだ。
山間の3月の夜はまだ肌寒く、春の気配は遠かった。駅前の通りを離れるとすぐに田畑が広がる。いつもより明るいような気がして空を見ると、満月が煌々と照っていた。
ポケットに手を突っ込んだまま、一車線しかない田んぼの中の道を歩く。
後ろから軽トラックが走ってきたので、道の脇に寄った。しかし、なぜかそのトラックは、俺を追い抜いたところで停止した。
「コンバンワ」
運転席の窓から顔を出したのは、顔見知りのコンビニ店員だった。日本人ではないらしく、少し言葉がたどたどしい。
「店長にキイタよ。あなた東京の大学行く。おめでとう!」
「ありがとうございます」
首だけでお辞儀をする。彼はニコニコしている。
「今お祝い会してるちがう? なんでここにいる?」
「あー……」
それがイヤになって出てきました、と、この人に言うのは面倒だった。言葉に詰まって空を仰ぐと、まん丸の月が目に入る。
「月が……」
「なに?」
「月です! 月がきれいだったから」
「おー、ほんとねー」
彼は車を降りて、俺の隣に歩いてきた。並んで月を見上げる。
「月はどこでみても同じ。どこでみてもきれい。ワタシの国でも、東京でも、きっと」
彼が笑うと、浅黒い肌の中で白い歯が目立つ。俺は、なんとなく気恥ずかしくなってうつむいた。
「どうした? なんかつらいことあるか? 東京いくのサミシイか?」
彼がのぞき込んでくる。俺は笑った。
「ありがとう。そうですね。でもがんばります」
「おー、ガンバッテ」
彼は俺の肩を軽くたたくと、トラックに戻っていった。窓から手を振って、山の方へと消えていく。
それを見送ってから、俺は、きびすを返した。あれほど空虚に思えた酔っ払いの「おめでとう」も、今なら素直に聞ける気がした。