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三題噺


ランダムに出された三つのお題を入れて話をつくる「三題噺」というお遊び。ときどきやりたくなります。10連休で時間が出来たのでちょっと書いてみました。


突破/田舎/月です!

 

「難関突破おめでとう!」

「いやー、うちの高校から東京へ進学するやつが出るなんてなぁ」

 まわりの大人たちは、主役のはずの俺をそっちのけにして、もう酔っ払って赤い顔をしている。

 別に、高校の先生に何をしてもらったわけじゃない。親だってそうだ。あんたたちの手柄はなにもない。俺はひとりで勉強し、ひとりで東京に行く。もうこんな田舎はまっぴらなんだよ。

 駅前の居酒屋は、呼んでもいないのにあとからあとから人が入ってきた。もう誰が誰だかわかりゃしない。そのうち、俺にも酒を勧めるやつが出始めたので、トイレに行くふりをして、さっさと店を出た。どうせあいつらは、ただ宴会したいだけで、俺のことなんか本当はどうだっていいのだ。

 山間の3月の夜はまだ肌寒く、春の気配は遠かった。駅前の通りを離れるとすぐに田畑が広がる。いつもより明るいような気がして空を見ると、満月が煌々と照っていた。

 ポケットに手を突っ込んだまま、一車線しかない田んぼの中の道を歩く。

 後ろから軽トラックが走ってきたので、道の脇に寄った。しかし、なぜかそのトラックは、俺を追い抜いたところで停止した。

「コンバンワ」

 運転席の窓から顔を出したのは、顔見知りのコンビニ店員だった。日本人ではないらしく、少し言葉がたどたどしい。

「店長にキイタよ。あなた東京の大学行く。おめでとう!」

「ありがとうございます」

 首だけでお辞儀をする。彼はニコニコしている。

「今お祝い会してるちがう? なんでここにいる?」

「あー……」

 それがイヤになって出てきました、と、この人に言うのは面倒だった。言葉に詰まって空を仰ぐと、まん丸の月が目に入る。

「月が……」

「なに?」

「月です! 月がきれいだったから」

「おー、ほんとねー」

 彼は車を降りて、俺の隣に歩いてきた。並んで月を見上げる。

「月はどこでみても同じ。どこでみてもきれい。ワタシの国でも、東京でも、きっと」

 彼が笑うと、浅黒い肌の中で白い歯が目立つ。俺は、なんとなく気恥ずかしくなってうつむいた。

「どうした? なんかつらいことあるか? 東京いくのサミシイか?」

 彼がのぞき込んでくる。俺は笑った。

「ありがとう。そうですね。でもがんばります」

「おー、ガンバッテ」

 彼は俺の肩を軽くたたくと、トラックに戻っていった。窓から手を振って、山の方へと消えていく。

 それを見送ってから、俺は、きびすを返した。あれほど空虚に思えた酔っ払いの「おめでとう」も、今なら素直に聞ける気がした。