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ノベライズというお仕事

 先日、日本児童文芸家協会主催の「児童向けエンタメ講座」のオンラインゼミがございまして。それに参加していた作家仲間同士が、Twitterで感想など言い合っていたときに、漫画や映画の児童向けノベライズという仕事についても、もっといろいろ知りたいねぇという話題が出たんですよね。

 それで、その方面では数だけはこなしている私が、なんとなく「自分の思っていることでよかったら書きましょうか?」ってなことを言ったら、けっこうたくさんの人に、是非に、と言っていただけたので、ちょっと書いてみようかなと思います。

 

 まず、ノベライズという仕事の簡単な流れを説明します。

 

  1. 編集部から、企画の概要と締切り、印税率などが書かれた依頼がくる。いけそうだと思ったら承諾の返事をする。
  2. 資料が送られてくる。漫画の場合はコミックス、映画の場合はシナリオ(原作がある場合はそのコミックスなども)。映像はある場合とない場合がある。(※)
  3. それらを見ながら規定のページ数内で小説に書き起こす。
  4. 書き終わったら編集部に送る。
  5. 編集部がチェックして気になるところがあれば修正。
  6. 原作サイドのチェックを受ける。訂正依頼があれば修正。

 

※映像がないパターンには、

a 単にまだできてない
b できているが部外に出せない

の二通りがあります。

aの場合は、出来次第送ってもらえますが、bの場合は試写会を観に来てくれとか、出版社の会議室で見てくれとかも……私はbのパターンはお断りすることも多いです。地方に住んでいるのでそう簡単に上京もできませんし。

 

 ノベライズは、いちばん売れそうなタイミングで書店に並ぶように企画されるので、わりとスケジュールはタイトだったりします。実際の執筆時間は、①~④まで2ヶ月あれば長い方で、1ヶ月とかいうのは普通だと思います。なので、わりと「速さ」は要求されるスキルかな……。

 

 ⑤⑥あたりはスケジュール次第で同時進行だったり、先に入稿して初稿ゲラの段階で校閲も同時進行とかも……。後から映像くるパターンだと、ゲラでそれを含めて修正したりとかも……。

 

 ⑥のあとはオリジナルの小説と同じで、ゲラの校閲を経てあれこれして出版となります。

 

 以下、具体的な仕事の流れを書いていきますが、ここからは完全に「私の場合」であって、唯一の正解とかではないです。ほかの作家さんは別のやり方をされていると思いますし、それぞれやりやすい書き方とかポリシーとかがあると思います。その点はご了承ください。

 

 原作が漫画の場合は、とりあえず一回ざっと読み、それからもう一回、今度は重要なシーンやセリフに付箋を貼りながら読み直します。キャラクターの年齢や家族構成などの設定、特殊な用語の説明、家の間取りがよくわかるシーンなど、小説で描写するときに必要な情報が載っている箇所をチェックします。私自身が初見の漫画ならなおさらですが、よく知っている作品でも、もう一度「一読者として」ではなく「作家として」の視点で読み返します。

 

 映画の場合は、原作がある場合はまず原作を読みます。それから映画のシナリオを読みます。映像がある場合は最後にそれを見ます。それからもう一度原作を読み返し、どこが変わっているか、なにを重点的に映画にされたのか、映画には出てこないけど必要な情報はどこかなどを、また付箋を貼りながらチェックしていきます。

 

 全体を把握できたら原稿に入ります。児童文庫だと15ページぐらいを1章として、だいたい7~12章立てぐらい。原作や映像を読み返し見返して確認しながら、各章のラストが引きになったり、大きいシーンの切れ目になるように調整しながら書きます。このへんもう私はぶっつけで感覚で書いてますね……。慣れてることもあって、大幅にページが多かったとか足りなかったとかいうことはもうほぼないです。

 

 1章目を書き終えた時点でいちど編集部に送り、文体や雰囲気がこれでいいか確認をとります。ダメと言われたら考え直さないといけませんが、幸い今のところそれはないです。(もうちょっと擬音多めに、とか注文がつくことはある)

 

 一回全部書き終わったら、今度はいちど最初から通して読んで、「小説として」成立してるか確認します。「原作を読んでいない」「映画を見ていない」読者が読んで、一回ですべてのキャラクターの関係や設定やストーリーがわかるかどうか、考えて手直ししていきます。

 

 もうちょっと詳しい話を、Twitterの方で児童書作家のみなさんからいただいた質問にお答えする形で書いてみますね。

(針とら先生、天川栄人先生、令丈ヒロ子先生、藍沢羽衣先生、質問ありがとうございました!)

 

「原作ファンと未読読者、どんなバランスで意識しますか?」(針とら先生)

 

 これは基本的には未読読者が第一です。小説として、初見の人が読みやすいかどうかを考えてやってます。

 

「原作には描かれてないけど小説には必要かも、という描写とかは、どのくらい踏み込みますか?」(針とら先生)

「ノベライズに際し、原作に書かれていない部分を補足して書くということはありますか? その場合、ご自身の想像力で書かれるのでしょうか? 原作者様に確認をとられるのでしょうか?」(天川先生)

「漫画をアニメ化する際は、尺の都合でかなりエピソードを削ると聞いたことがあります。ノベライズも同様の判断を迫られるのかなとも思うのですが、どのエピソードを採用・省略(場合によっては追加)するのかなど、小説としての見せ方を考えるときに工夫されていることを知りたいです!」(藍沢先生)

 

 原作に何を足すか、あるいは引くか、という話ですけど、やはり基本的には「独立した小説としてちゃんと成り立つように」というのが基準になります。原作未読の読者が「ひとつの小説として」楽しめて、かつ、「原作のよさを殺さない/原作にも興味を持ってもらえる」ように、というのが判断基準になると思います。

 

 これ、漫画をノベライズする場合と、映画をノベライズする場合でちょっと話が変わってくるんですけど……。

 

「足す」場合というのは、だいたい、場面転換の都合や、説明不足を補うときですかね。映像だと急に場面変わってもなんとなく見れたりするのですが、小説だとキャラクターが場所を移動した場合はいちいちその辺に、場をつなぐための台詞とか、なぜ移動したかのもっともらしい説明とか必要になる場合もありまして……。その辺は想像で補って、ここでこのキャラクターたちならどういうやりとりをするだろうか、というのを考えつつ補足していく感じ……。

 

 映画のノベライズだと、そもそも原作漫画を大幅にはしょって再構成してある場合がほとんどなので、そこで落ちてる情報とかを適時ひろいあつめて、不自然にならない箇所につっこみます。キャラクターの台詞をふくらませたり、原作にあるけど映画にはなくなってるシーンとかをまるっと足すこともあります。

 

 いずれにせよ、初稿の段階で原作サイドのチェックを受けるので、是非はそこで判断してもらいます。あらかじめお伺いを立てるということはないです。

 このチェック内容も、実は先方によってほんと、基準がまちまちで、ぶっちゃけると担当者次第なんですよね。ものすごく寛容に「小説は小説として独立した作品であればいいですよ」という感じで、最低限のチェックだけで通る場合もありますし、もうそれこそ台詞の一言一句まで原作通り、映画で役者さんが喋ったとおりに書いてくれ、と、真っ赤に修正入って戻ってくることも……。私なりに最善と思ってやった工夫が却下されるとしんどいですけど、そこはまあ、与えられた範囲内でやりなおすしかないので。また角度を変えて最善の道をさぐります。

 

 あと、「足す」話で気をつけないといけないのは、やっぱりキャラクターの関係性とか感情面をあまり定義づけないようにすることでしょうか。二次創作みたいになってしまうので。小説としての描写の範囲を超えないようにするというか。恋愛ものなのか少年漫画なのかでその辺のさじ加減は変わってきますが……(恋愛ものならむしろロマンチックに盛ってほしいというのはある)少年漫画系のノベライズとかだと、たとえ作中で公式とされている男女カップルでも感情面の描写には厳しくチェック入る印象です。

 

「一人称にすることが多いですか? 一人称にすると、原作エピソードがそのまま描きにくいこともあると思うんですが、その辺りはどう解決するのかな?と」(令丈先生)

 

 仰るとおりで、一人称だと難しいことが多いため、基本は三人称でやっています。ただ、場面場面の視点でかなりひとりのキャラに入り込むときは、限りなく一人称に近い感じにしたりも(地の文に、俺は、とかをつかうことも)。

 

 漫画や映画という映像表現を小説に書き直すときに、いちばん気をつけないといけないのは、この「視点のコントロール」だと思います。

 

 例えるなら、映画や漫画は、カメラが複数台あって切り替えが自在なので、複数の場所を一瞬で行き来したり、多人数のモノローグが入り乱れたりしても成立するんですが、小説はカメラ1台しかないようなものなので、それをそのまま小説に起こすのは難しいです。シーンが切り替わるたびに、ここは誰の目線で書くのがいちばんわかりやすいか、そうした場合に落ちてしまう情報(視点キャラ以外のモノローグなど)をどう補足するか、別のキャラ視点のシーンに自然につなぐためにどうするか、ということを、常に意識しながらやっていく感じですね。

 

「マンガだと映えるけど小説だと映えないかも、っていう表現とかは、どうしていますか?」(針とら先生)

 

 漫画(映像)だと映えるけど小説だと映えない代表は、やっぱりバトルとかスペクタクルシーンですね……見開きもSEも使えないので……。

 あと、恋愛ものとかで多用されるカットバック(複数の場所で起こっている出来事を交互につなぐ技法)もかなりの鬼門です。それから、これもめっちゃ出てくるのですが、台詞のないイメージシーンみたいなのをいくつもつないで時間の経過をあらわすやつ! 一年経ったことを表すために春夏秋冬の日常カットみたいなのをいい感じのBGMにのせてつないでいくみたいなやつね!! 

 この辺はもう、「そのまま書くことは不可能」だと思ってます。というか、忠実に書こうとすればするほど失敗します。これらはいずれも、視覚に訴えることに特化した表現だからですね。最初から「絵」のない「小説」には分が悪いです。

 

 バトルシーンとかだと、ついついキャラクターの一挙手一投足を文章に書き起こしてしまいがちなんですけど、それってただスピード感を殺すだけになってしまうことも多い。

 

 以前、どっかで「最近読んだラノベで、剣戟のシーンを『キンキンキンキンキン!!』の擬音と台詞だけで構成してあって頭抱えた。これだからラノベは。これだから最近の小説は」みたいな嘆きを目にしたんですけど、私はこれ、ある種の正解だよなーと思ってます。表現したいのが剣戟の合間の激しい舌戦の方なら、太刀筋とかを詳細に書いても邪魔になるだけだし、よっぽど上手くやらないと、逆に読者が動きをイメージできなくてしらけると思うんですよね。

 

 要は、そのシーンを通じて読者に感じてほしいことは?という部分にまで一回立ち返って、視覚描写にこだわらない、小説ならではの表現を考えた方がいいのでは、と思うのです。

 

「視覚表現」という部分では、どうやっても小説は映像に勝てない。でも、逆に、小説だから書ける表現というのもある。

 例えば、「匂い」「音」「味覚」など。映像には映らないけれど、その場にいれば絶対に感じられるはずのもの。

 

 激しい戦闘シーン。爆発。めまぐるしい剣戟。それを外から見るのではなく、キャラクターの内側から描写する。

 火薬の匂い。熱風で焦げる髪。煙が目に染みる痛み。口の中に広がる血の味。どこかで誰かが泣いている声。ひっきりなしに聞こえる悲鳴。映像には映っていないけど、ぜったいに「ある」はずのもの。

 ぶつかりあう剣の重み。打ち込む度にしびれる手。耳鳴り。あるはずなんです。イメージをふくらませてそれを書く。それで緊迫感や臨場感をおぎなっていく。

 

 学園恋愛ものでもそう。風の匂い。温度や湿度。クリスマスの街にはジングルベルの曲が絶えず流れている。バレンタインにはチョコレートのにおいがする。静かな放課後の教室はほこり臭くて、遠くのグラウンドを走っている運動部のかけ声や、吹奏楽部の練習の音だって聞こえているはず。

「エモい感じに一年の時間の経過を表したい」のなら、その辺をうまいこと利用して書くことはできる。必ずしも「映像の通りに描写する」ことが「そのシーンを再現している」ことにはならない、と私は思っています。

 

 

 あまり面と向かって言われたことはありませんが、ネットの書き込みとかでたまに「ノベライズなんか誰でも書ける」「読書の内に入らない」とかいう言説を目にします。まあ、軽んじられるのは仕方ないかなとも思っています。ただ、本当に「誰でも書けるか」というと、これはこれで結構、独特のスキルが必要な仕事かもしれません。

 

 私がなんだかんだ、話題作や人気作を担当させていただけてるのは、まず第一に、私自身が「わりとなんでも好きでなんでも書ける」からだと思います。学園ラブコメ、切ない系、SF、ファンタジー、時代物、アクション、異能バトル、オカルト系。どんな漫画も読みますし、読んでいるので知識もまあまああります。

 高度に専門的な知識は必要ないかもしれませんが、例えばアクションシーンなどを書こうとすると、やはり体術や剣術の基本の動きなど知っているかどうかで変わってきますし、ファンタジーや時代劇はそれにふさわしい用語、異能ものやオカルトは民俗学の知識、とか、描写に説得力を持たせるための裏うちは必要です。特に児童向けだと、さらにそれらの専門用語を小学生にわかる範囲の言葉に置き換えたり説明したりしなくてはならないので、ただ原作通りに書いてりゃいいだろということでもないです。なにせ絵がないのに原作通りのイメージを想起させないといけないので。

 

 私は今年53歳になります。同級生には孫がいたりしますし、担当作の原作者が娘と同年代という事例も出てきました。だから、もっと若い、原作者と感性が近い作家さんがノベライズした方がいいのでは?という声も、やがてはあがるかもしれません。でも、まだ今のところ、私は「最近の漫画やアニメにはついていけん」と思ったことはないですし、「いまの若者にとても人気のある作品」に、ノベライズという形で関わらせてもらえるのは本当に楽しいです。依頼がもらえる限りは書き続けていきたいと思っています。