· 

掌編「四つ葉さがし」

日本児童文学者協会の会誌「日本児童文学」2021年5・6月号に掲載された掌編です。規定の期間がすぎたのでこちらに再録いたします。


 児童館のうすぐらい裏庭にしゃがみこんで、わたしはいっしょうけんめい、そこに生えている草をかきわけていた。

 ハート型の葉がみっつくっついた草。

 みっつ。これもみっつ。ぜんぶみっつ。

「ないなぁ……」

 一日中ほとんど日の当たらない地面はじんわりとしめっていて、うっかり手やひざをつくと、黒い土がこびりつく。

「どうしよう……」

「なにしてるの?」

 急に声をかけられて、わたしはびっくりしてしりもちをついた。わっ、おしりがつめたい。

「だいじょうぶ?」

 そう言いながら近づいてきたのは、ここでははじめて見る子だった。わたしとおなじ三年生ぐらい? ショートヘアの女の子。

「なにか落としたの?」

 女の子はわたしのそばにしゃがんで、地面を見回す。

「ううん、四つ葉さがしてるの」

 女の子はまゆをよせた。

「四つ葉……って、これ、クローバーじゃないよ」

「えっ」

「これは、カタバミっていう、ぜんぜんべつの草だよ。クローバーは、こんなじめじめしたとこには生えないんだよ」

「そ……そうなの?」

 わからない。この子の言ってること、ほんとうだろうか?

 だって、わたしに、これがクローバーだよって教えてくれたのは、なかよしのまりちゃんなのだ。

「なんで四つ葉さがしてるの?」

「と……友だちにあげたくて……」

 明日ひっこしてしまうまりちゃんが、どうしてもほしいって。わたしとの思い出にしたいから、ここでさがして持ってきてねって、そう言ったから。

「クローバー、うちの近くの公園にいっぱい生えてるよ」

 女の子は、わたしをひっぱりおこしてくれた。

 

 児童館から出て、広い道をわたり、角をふたつ曲がっただけで、その公園に着いた。

 こんなに近いのに、知らなかった。広くて明るい公園。小さい子どもたちがたくさん遊んでいる。

「道のこっちは、南小の校区だから。あんた、西小でしょ」

 女の子はそう言いながら、さっそく公園の芝生に入り、あたりをさししめした。

「ほら。いっぱいある。これがクローバーだよ」

 かたい芝を押しわけるように、みっつの葉っぱがくっついた草が一面に生えている。

「わたし、前にこのへんで四つ葉見つけたことあるから。多分、また見つかると思うよ」

 そう言うと、女の子はすぐに地面に両手をつき、顔を草に近づけてさがしはじめる。

 わたしも、少しためらいながら、芝生にしゃがみこんだ。

 地面は、さっきの裏庭とちがってとてもあたたかくかわいていた。やさしいにおいがした。

 そっとその葉にふれる。

 カタバミより、ずっと色がこくて、しっかりした葉っぱ。茎も長くてかたい。少し白いもようが入っている。

 ほんとうだ。たしかに、絵で見たことのあるクローバーにはこのもようが入っていた。

 じゃあ、まりちゃんは、どうしてわたしにあんなこと言ったんだろう。

 まりちゃんもしんじてたんだろうか。それとも――ウソついたんだろうか。

 ふっ、とそんな気持ちがよぎったとき。わたしは見つけた。

「あった……四つ葉」

「わたしも見つけた!」

 女の子がふりかえった。さしだした手には、わたしが見つけたのより少し小さな四つ葉がつままれている。

「やったぁ! よかったね!」

 女の子はわらった。わたしもわらった。

「きっといいことあるよ!」

 ううん。もうあった気がする。

 わたしは、見つけた四つ葉をポケットの中のティッシュケースに大事にしまった。

 帰ったらきれいな紙にはさんで、まりちゃんにわたしにいこう。

 だって、もうおわかれなんだもの。だから、それでいいんだ。それだけで。

「あのさ……また遊べるよね? 名前、きいていい?」

 日の光がさす芝生の上で、わたしがそう言うと、女の子は、あたりまえじゃん、と、びっくりしたようにわらった。

(初出:「日本児童文学」2021年5・6月号)